アイカツスターズ!第63話『ツンドラから吹く熱い風』〜白銀リリィの成果を振り返る
アイカツスターズ!第63話『ツンドラから吹く熱い風』[脚本:野村祐一/絵コンテ・演出:中島大輔/作画監督:西島加奈、石田智子]
白銀リリィの抱えるメインテーマが(主に身体面での)「抗えなさに寄り添いながら自分に出来ることを成し遂げていく」であるということに関してここでは詳しくは検討しないが、『Dreaming bird』と『荒野の奇跡』の歌詞
「この手のひらに残されたもので何が出来るかを見届けていかなくちゃ 」
「抗えぬ力に寄り添いながら 傷ついた翼をふるわせながら それでも羽ばたいてわたしは生きる」
共通テーマを考えれば十分な説得力になるでしょう。(それを踏まえた上で第92話「 私たちのエピソード ソロ」でのリリィの願いが「無病息災でアイカツ」だったので泣いてしまう)
『ツンドラから吹く熱い風』〜あらすじ
SPRドレスを獲得したこともあり例年より心身の充実を感じる白銀リリィは、夏期通例の高原療養は行わずゴシックヴィクトリア主催・ファン感謝ツアーへのチャレンジを決意する。
リリィ先輩へ恩返しがしたいと桜庭ローラも同行しツアーがはじまるが参加者が一人集合時間に遅れてしまう…そしてそれはギャグみたいに多発するトラブルと超展開への序章に過ぎなかった…
というわけでアイカツシリーズ特有の超展開中心のギャグ回という位置づけになると思いますが、実は白銀リリィの成果を振り返るための重要なエピソードとしても機能しています。
『ヴァンパイヤミステリー』『ギャラクシースターライト』『リトルフェアリー物語』などは、ドラマの中という完全フィクションの設定あってこその超展開ですが、『ツンドラから吹く熱い風』に関してはフィクションの線引きが曖昧になっているという特色がある。
白銀リリィといえば現実主義者的な描写が強い。
みんなと一緒でなければいけないのですか
私たちはみんなひとりひとり違います
感性も記憶力も運動能力も 体力も 顔立ちもスタイルも そして声の質も声量も
さまざまな個性があるのですから レッスンの仕方もさまざまで良いのです
みんなで一緒にレッスンすることで得ることも多いでしょう でも それが出来ない時は今あなたに出来ることを精一杯やればいい
それがセルフプロデュースです
(アイカツスターズ!第26話 奪えない夢)
桜庭:リリィ先輩は皆さんを笑顔にするために歌ってるんですね
リ:何の話ですか
桜庭:えっ?
リ:自分のブランドで作った自らが愛するドレスを着てステージに立ちたい ただそれだけです
言うなれば私は私自身のために歌っているのです
(アイカツスターズ!第33話 迷子のローラ⁉︎)
といった現実主義者である反面、誰よりも空想を愛する文学少女であるし、自身の運命を語る夢想家の側面もある。
今でも思います
ゆずがこの本を持って来なければ今の私は存在しない
そう、あれはまぎれもなく運命
運命を引き寄せるも抗うもあなた次第
(アイカツスターズ!第27話 小さなドレスの物語)
63話冒頭のオロスコピオサウルスを想像するシーン
恐竜だと説明されてるにも関わらず博識のリリィが想像していたのはどう見ても怪獣…そういう突飛のない想像力も内包しているリリィの二面性が示されたシーンでした。
また『ツンドラから吹く熱い風』というサブタイトルも、「ツンドラ」と「熱い」という両極端な二面性を引き立てる上手なタイトルになっています。だからこそ、このエピソードの構造自体、夢と現実の線引きが曖昧な二面構造になっており白銀リリィの二面性を表しているのではと思うのです。
さて本筋へ、現実的な抗えなさに寄り添うというテーマと空想的な夢も信じるという二面性を内包する白銀リリィですが、本エピソードで次々に巻き起こるトラブルに対しては「なんとかなりませんか… 」(困り顔)(かわいい)と懇願するだけで、自分では解決策を見つけられない無能な人として描かれています。トラブルに対して解決策を提示するのは自身が夢破れた四ツ星S4というむなしさ。終盤、リリィの夢の中で戦隊ヒーローになって戦うのがS4であるのも、身体の弱いリリィに対して力の象徴S4というのが強調される描き分けで、そこにはリリィが無意識下に抱く弱さへの負い目みたいな感情もあるのだと思います(そして桜庭もリリィ側というかなしさ)。
ただ、このエピソードにおけるトラブルに一貫されているのは、遅刻・忘れ物・停電など当事者の意志の強さや身体的な強さとは無関係に起こり得る、万人共通の抗えなさである。(弁当の忘れ物くらい気付こう!)
この世界は個人には抗えない事象で満ちている。リリィはリリィ独自の抗えなさを抱えているが本エピソードはそれとは関係なく人間が直面しうる抗えない場面を浮き彫りにした。そしてただ懇願することしか来ないリリィは自身では何も解決することが出来ないが、その窮地を救ったのは他でもないリリィのこれまでの成果である。
リリィの力になりたいと自主的にツアーに同行した桜庭ローラをはじめとして、行く先々で(偶然)遭遇するS4も率先して協力したいと申し出る。それはここに至るまでのリリィのアイカツが後輩たちにリスペクトされていたから。
S4戦では夢破れたがリリィだがこれまで彼女が周りに与えてきた影響は、S4を動かしうる成果となって返ってきた。自分では抗えない事態(自分の専門分野外も)も他人の力を借りて好転することもある。
思えば、第39話「四ツ星学園、危機一髪!?」も、それまで自らの道は自ら切り開いてきたと自負していたリリィが他人に支えられていたことを受け入れるエピソードでした。
夢は誰にも頼らず 自らの手で掴みとるものだと思っていました
でも それは愚かな考えでした
私は知らぬ間に多くの人の力を借りていた いつも誰かに助けられていた
本当にありがとう
(第39話 四ツ星学園、危機一髪!?)
本エピソードは第39話の補完であり、さらに先へと向かうエピソードです。そうやってライブステージの準備が整った涼風高原。かつて、私は私自身のために歌っているのですと述べたリリィが、このステージではいつもの口上の前に「感謝の場を与えてくれた全ての人たちの為」と他人への率直な感謝を述べた上で「白銀リリィ このひとときに 魂をこめて」と続けました。
第63話はこれまでの白銀リリィの総決算的なエピソードといえますし、「みんなはひとりのために」という精神を学んだリリィは後に、孤高のアイカツを続けていた騎咲レイと共に「裸足のルネサンス」を歌うなど、さらなる成長に繋がっていきます。
第63話の白銀リリィはライブまでに至る問題を何も解決出来なかったけれど、それでも最高のアシストを受けて最高のステージを魅せた。
それは裏方や各関係者のお膳立ての上で輝くアイドルという存在そのものでもあるし、いかなるドラブルが起ころうとそのステージで観客を魅了されられることこそアイドルにとって何よりも大切な資質であるという、アイドルアニメを代表するエピソードのひとつだと刮目されたい。決して野村祐一の暴走ではない。
(停電中の人里離れた高原にどうやって観客が集まったんだとか細かい話はどーでもいーんだコノヤロー)
抗えなさやファンや仲間に支えられていることを受け入れ、今の自分に出来ることに魂をこめること。そんなテーマとリリィが向き合うための『ツンドラから吹く熱い風』でした。
そして第100話『まだ見ぬ未来へ☆』にて、リリィは第63話では務めきることが出来なかったツアーガイドの役目を果たし、アイカツスターズ!という最高のアニメの幕は下りたのです。