新参ワグナーより/この世界で生きるためのアニメ「Wake Up, Girls!」論(とアイカツ!論)
皆さん元気ですか?
わたしは元気です。
この度Wake Up, Girls! Advent Calendar 2018の22日を担当させて頂いてます、新参です。
経緯
2018.9.29プリパラオータムライブにてRun Girls, Run!のパフォーマンスがあまりに素晴らしかったことや、10.20の深夜twitchでやってたアニクラで高木美佑というI'veサウンド大好き声優の選曲が素晴らしかったこと、そこで数年ぶりに聞いた「タチアガレ!」が異常に沁みたことで、かつてハマれず以降のシリーズの存在すらよく知らなかった「Wake Up, Girls!」シリーズの続・劇場版以降を履修することにしました。ちなみにオータムライブ時点でのwugに関する知識はプリパラのノンシュガーというユニット(田中美海・山下七海・大森日雅)をみてこの子たち3人ともwugなんだっけ? 真中のんの声優名前は知ってるけどMC上手いっすねくらいのレベルだった。
かつて劇場版七人のアイドルはそこそこ面白かったけど旧章の方は序盤にとても厭なプロデューサーが出てくるなどフラストレーションを溜めさせる作りがまったく合わなかったし最終話のライブ作画に関してはもはやトラウマ。
ただ数年ぶりに旧章含め再履修してみるとこれが本当に面白くひと月くらいで新劇場版→新章→劇場版→旧章→わぐばん!(あにてれで見れる)を2周くらいしていた。わぐばん!的運動会狂おしいほど好きなので軽率にリピートしてる。
新参ながらもWake Up, Girls!シリーズに関して何か纏めておきたいと思っていた矢先このような機会を見つけたので書いています。
当方これを書いている時点では公式インタビューの類をほとんど拾っておらず、ここから先は完全に個人の見解、解釈の話になりますのであしからず語らせてください。あと先に謝っておきますがアイカツの話が多い。
この世界で生きるための震災後アイドルアニメ「Wake Up, Girls!」と「アイカツ!」
アイカツ!の場合
加藤陽一 大きな転機になったのが、東日本大震災です。コンセプトを固めている最中の2011年3月に、東日本大震災が発生しました。地震が起きた瞬間、僕は東京・浅草のバンダイ本社で『アイカツ!』の会議に出席していたんです。地震で電車が止まったので、車で来ていた僕が3人に声をかけて、皆を送っていくことになりました。TVで原発や津波のニュースを見ながら進むうち、都心で車も動かなくなっちゃって。結局浅草を出て、皆を送って23区内の家に帰るまで12時間位かかりました。そのとき一緒にいたのが、アニメ『アイカツ!』の若鍋竜太プロデューサーと企画スタッフです。車に缶詰状態で、8時間から10時間ぐらい、地震の影響を目の当たりにしながら、皆で『アイカツ!』のことを話しました。まるで合宿みたいな濃い時間でした。「こんなことが起きたら、いままで話したような作品はできないね」という話もその場で出て。それを受けて書き直した企画書の内容が、そのときの僕らの思いを込めたものだったんです。
——どんなふうに変わったのでしょうか?
加藤陽一 ネガティブな出来事も起こりえるレトロなスポ根路線は消えてなくなり、代わりに、「皆で一緒に笑いながら身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」が必要だろうということになったんです。「トップアイドルを目指すスポ根サクセスストーリー」の部分はそのままに、「温かくて前向きな気持ちになれる作品を作ろう」と、企画をブラッシュアップしていきました。この段階の企画書に書いてあることは。現在のところほぼすべてが、作品内で実現しています。あの震災が、『アイカツ!』という作品にとっての転機だったと思いますね。
『アイカツ! オフィシャルコンプリートブック(学研パブリッシング)』130-131P
しょっぱなからアイカツの話かつ転載の転載で申し訳ないが、アイカツが震災を機に大きく方向転換しどこまでもポジティブな作品となったということはアイカツおじ(おば)さんの間では有名なエピソード。
アイカツはどこまでも前向きなアイドルたちとそれを時に厳しくも優しく見守る大人や温かいファンなど、ネガティブな要素を排除し劇中でほとんど涙が流れる事がない優しい世界の物語です。二期にでは分かりやすい悪役パパラッチが登場するも一瞬でなかったことにされた事件もありました。
ネガティブ要素の排除 ≒ 足を引っ張る人がいない という現実ではありえない優しさに満ちた世界ではあるものの、例えばトップアイドルになれるのは一人しか存在しないので競争や敗北はありますし、優しくも当然厳しさも存在する世界だ。アイドルとそれを取り巻く人々のポジティブの相乗効果で皆がどこまでも高め合い続けるどこまでも前向きな作品。
そしてそういうポジティブの相乗効果を目の当たりにした視聴者たちはアイカツから学び受け取ったものを、辛く厳しくもあるそれぞれの現実の世界をポジティブに生きるための糧にする。
アイカツについて持論を簡単にまとめると、現実世界とは少し異なったポジティブな(ファンタジー的)世界から受け取ったものをこの世界で生きるため、より良い未来へ向かうための物語であると思います。
Wake Up, Girls!の場合
対して、震災に直結した作品であるWake Up, Girls!のアプローチはタチアガレ!の歌詞、
Wake Up! この祈りよ届け今 夢に向かうよ 両手伸ばしてStand Up! 迷いなく走り出そうこの世界で 生きるために
にあるように ”この世界で生きるため” の作品であると同時に、震災の爪痕や現実でも起こりうるアイドルを取り巻く環境に関するネガティブ面をあえて強調して描く超現実的な(ノンフィクション的)な作品になっている、という対比が出来るかなと思います。
どちらかが優れているという話ではなく共に震災が転機となったアイドルアニメでありながらここまで大きなアプローチの方向の違いが面白い。特にアイカツにどっぷり浸かった後に再履修したWake Up, Girls!のネガティブ面を厭わない泥臭さというか人間臭さは衝撃的だったし、それでいてアイカツと同じくこの世界で生きるため、より良い未来へ向かうための物語になっているのが美しく愛おしいと感じました。
Wake Up, Girls!はアニメに ”癒しみたいなもの” を求めていたアイカツを履修する前のかつての自分には到底解釈できないエピソード群でした。
上でアイドルを取り巻く環境に関するネガティブ面をあえて強調して描く超現実的な(ノンフィクション的)な作品と書きましたが、震災により親しい人(慕っていた異性)を失くした菊間夏夜というキャラクターに焦点を当てた第九話「ここで生きる」はこの作品の方向性の究極系ではないでしょうか。
癒しを求めて美男美少女キャラクターを消費コンテンツ的に扱う深夜帯のアイドルアニメが絶対に避けて通る生々しい人間感情や、故人への恋愛感情みたい禁忌を敢えて顕すことで、島田真夢の台詞にもあるようにこの作品は "アイドルである前に人間” という面を本気で描いているのだと分かりましたし、そんな荒波にあえて挑戦する意欲を支持します。
またWUG界隈の情報を拾っていると第二話「ステージを踏む少女達」、所謂水着回についての解釈(問題点)が散見されているので私からもひとつ。上下で述べている通り某監督は意図的に深夜帯のアニメファンが直視したくないようなキツい描写を意図的挿入していて、そういう描写が受け入れられないとか作り話の中にまで辛い現実を見せられたくないみたいな意見が多いみたいですが、そういう意見にこそたかがアニメ、たかがフィクション、たかが消費コンテンツという怠慢を感じてしまいます。といっても個人的な地雷の範囲は人それぞれ持ってるわけで無理なら無理で離れればいいだけですしアニメをたかが娯楽と割り切っているならそれでいいと思います。ただ私個人の意見としてはアニメーションで第2話の水着回や七人のアイドルのパンチラみたいな超現実的ネガ描写をやる意味というのはアニメーションで障碍者を扱うことや、それこそ震災を扱うことと本質的な差はないと思っています。そしてそういう方法で良くも悪くも人間感情を揺さぶりアニメーションやアイドルについて改めて考えるきっかけにさせるのが監督の真意だったのではと邪推します。ただの癒し消費コンテンツでは感情が揺さぶられることはないからね。監督の人間性がアレだとしても監督の作家性と僕は握手することが出来ます。はい、超個人的な意見でした。差別的な表現になっていたら大変申し訳ない。
以降の続・劇場版においても現実世界の年月の移り変わりに合わせて登場キャラクターたちの年齢も推移させ声優ユニットWake Up, Girls!と共に現在進行形で成長していくハイパーリンクように、既存の深夜帯アニメにありがちな箱庭化からの脱却を目指す世界観。そういう部分に惹かれました。
アイドルだけど人間。
アニメキャラクターだけど人間。
フィクションだけど現実。
「アイドルとは物語」
「アイドルとは物語」というのはWake Up, Girls!シリーズにおける一大テーマといえるだろう。これって現代アイドルの本質を捉えていて、某I-1clubの元ネタのグループだって一番美人だったり一番歌が上手かったり一番ダンスが上手い子が必ずしも一番人気になれるわけではなくて、一番多くの物語を持ってる子が勝つんですよ。
ファンはそれぞれ推しを決めてアイドルグループと推しと自分との文脈を物語にして楽しむ。歌やダンスなどパフォーマンス面も大事だがファンとの文脈(いわゆる私信)を集めやすく物語性が高い人物にこそ特に人気が集まる時代だと思います。
スキル(容姿・歌唱・ダンス等)も勿論大切な文脈ですが決して本質ではない。スポーツ選手に置き換えると上手い選手にだけ人気が集まるわけではなく、親しみやすいキャラクターの選手にこそ人気が集まったりするみたいな話。高校野球では公立高校に人気が集まるでしょ。
それ故アイドルに本当の気持ちや人格など必要なく、人気のためファンに求められるようなアイドル像という白木徹から与えられた物語を忠実にこなす事でこそナンバーワンになれる、というのがI-1clubがやっていることです。
アニメ「Wake Up, Girls!」の最大のモチーフである黒澤明「7人の侍」の有名な台詞に、
「勝ったのはあの百姓たちだ、わしたちではない」
というものがあります。
「七人の侍」は当時の象徴的な存在たる侍が百姓たちを鼓舞しつつ自らを粉骨砕身して敵に打ち勝つ物語ですが、代わりに七人の侍たちが失った損失はあまりに大きく、また大義が果たされた後の侍は刀が必要なくなりつつある変わりゆく時代の中で存在意義を失いつつある。物語を失いつつある。
そしてそんな侍とは対照的に、百姓たちが大義の後すぐさま未来に向かって歩みはじめているのを目の当たりにして言う台詞です。
アイドルだってある意味近い存在です。
ファン(7人の侍でいうところの百姓)はアイドルという "特別" に救われたりするけど、アイドルがいくら粉骨砕身の努力を重ねその日のステージを成功させてとしてもファンが関心を失えば明日はどちらかに転ぶかわからない。必要とされなければ存在意義を失う実は不確かな存在。
特に深夜アニメや現代アイドルはコンテンツ消費される運命にあると思います。
だからこそそういうアイドルの宿命を踏まえた上で、島田真夢のモノローグからはじまり、自分の幸せについて言及するエピローグで締めるというアイドルの人格を救おうとする構成が素晴らしいし、既存のアイドルアニメの物語に沿わないWake Up, Girls!の人間臭さ生っぽさが大好きなんです。(そしてアイドルである『WUGちゃん』と一介のファンに過ぎない『ワグナー』という超えられない壁を「Polaris」という曲が取り払ったいう話はまたどこかで…)
「7人の侍」のメインは侍が活躍する物語でありますが、凡百である百姓たちがただ与えられていた立場から脱却しようとタチアガったからこそ叶えられた夢でした。ただ生きていくことに関してタチアガレ!やWake Up!という言葉は使いません。与えられた環境、与えられた幸せではなく主体的に幸せを掴みにいくんだというメッセージの表れです。
震災の絶望の中でただ生きるのではなくタチアガるための勇気をくれる物語が「Wake Up, Girls!」なんだと思います。
「アイカツ!」ではセルフプロデュースといって自分を売り出すための創意工夫は自分で考えなさいとアイドルに委ねられます。周りの人間が役割を与えてくれる訳ではなく、アイドル自身がこうなりたいと発する強い意志に対して周りが全力でサポートするという構図です。
未来向きの今をみせ続けたのが「アイカツ!」でした。
物語の象徴としてのアイドルによって我々視聴者も自らの道へ進む活力を与えられる物語。
震災後アイドルアニメ「Wake Up, Girls!」と「アイカツ!」は異なるアプローチながら共にそういう力を持つ作品だと思います。
(個人的にはアイカツ!の後継作品アイカツスターズ!こそ超現実的な世界観の中アイドルとしての死と向き合いながら、人間の未来への意志が強く感じられる泥臭い作品になっているのでワグナーさんにこそみてもらいたいです)
アイドルを、アニメを、フィクションを、ネガティブを、どこまでも生のものとして受け入れ明日へWake Up!していく姿勢が好きだし広く知られて欲しいという事で書いてきました超個人的Wake Up, Girls!論ですが、ここらでひとまず締めたいと思います。
ありがとうございました。
ワグナーとアイカツオタクへ愛をこめて
私が応援し続けていたアイカツの歌唱担当グループ、「STAR☆ANIS」と「AIKATSU☆STARS!」は昨年2月のアイカツ武道館という花道を与えられ最後まで笑顔のまま"卒業"していきました。
しかし内情としては卒業が告知されたのは武道館まで1ヶ月をきっている時期で心情の整理が追いついていなかったし、平日開催ということもあり卒業発表ブーストによりようやくチケットが捌けたレベルでした。あと事務所の意向だと思いますが卒業後の各メンバー個人の芸能活動について語る場すら与えられず、自分の推し(松岡ななせちゃん)が他界する可能性も孕んでのかなり複雑な状況だった訳です。
それでもライブでは全員が最後までポジティブな姿と最高のパフォーマンスを見せ続けてくれた未来向きのものであったし、卒業後も歌唱担当メンバー全員が芸能界に残り各個人現場にて新しい未来をみせてくれたし、時にはメンバー間での共演が叶ったりと、死ぬと思っていたアイカツ武道館以降も含めて最高の1年間になりました。
(余談ですが、舞台『Wake Up,Girls!~青葉の軌跡~』にて元アイカツ歌唱担当の堀越せなちゃんがナノカス役で出演していたのですが、wug公式ブログにてまゆしぃが堀越せなと青山吉能ノリが一緒なんだよなぁとボヤいていたの狂おしいほど好き)
豆腐メンタルなオタクたちは常に推しの方向性や事務所への疑念に駆られていつでもポジティブでいれたわけではありませんが、元歌唱メンバーたちは皆アイカツから受け取ったメッセージを胸にステージの上では常にポジティブな姿勢を魅せてくれました。
今、声優ユニット「Wake Up, Girls!」を取り巻まく状況がその時とどれほど類似性があるのかは分かりませんが、少なくとも推しが未来への意志を示し続ける限り、新しく最高の未来は開けてくるのだと知ることが出来た一年だったし、私がこの短い期間で知ったwugちゃん達もそういう最高をいつまでも切り拓いてくれる最高のメンバーたちだという確信があります。
まだ「Wake Up, Girls!」のライブには参加したことがなく今まで文脈を知ることが出来なかったことが非常に残念である反面、最後のツアーに間に合ってよかったという想いの方が強く参加予定のPartⅢ大阪と愛知公演が楽しみでなりません。
最後になりますが、2019.3.8「Wake Up, Girls! FINAL LIVE」in SSA開催おめでとうございます。
約束の地で、その先の未来で最高になりましょう。
終わらないよ僕らDreamer
アイドル「Wake Up, Girls!」について言及した姉妹項みたいなものもあるので、よければ御一読ください
本記事は『Wake Up, Girls! Advent Calendar 2018』22日目の記事となります。
昨日のご担当は(otonokigachi)さん、明日のご担当は(gomi_ningen)さんです。